第54回関西俳句大会

日時:令和元年5月25日

於:大阪・淀屋橋朝日生命ホール


【朝日新聞社賞・関西俳句大会賞】

滝となる水の一念通しけり 岡山県 岸しのぶ

【関西俳句大会賞】
落葉掃く日向日影と音たがへ 大阪府 野口喜久子
雪だるま影まで溶けてしまひけり 岐阜県 七種年男
一陽や念入りに拭く馬のかほ 兵庫県 上原悦子
着ぶくれて余命一日使ひ切る 大阪府 浅川正
木屋町の宵の明るき時雨かな 大阪府 森田幸夫
どこまでも行く気小春の三輪車 広島県 渡里トモ枝
炭の名に菊や桜や初手前 大阪府 広岡育子
山羊の子の顎よく動く小春かな 滋賀県 前田攝子
本当の土になるまで耕せり 兵庫県 大和愉美子
晩学の机にこぼす風邪薬 三重県 齋藤千代子

江崎紀和子
湖のまぶしき駅や更衣 涼野海音
帰宅せし夫より雪の匂ひかな 関美奈子
鱚釣りの空に虹色引きあぐる 夷子礼子

山尾玉藻

一陽や念入りに拭く馬のかほ 上原悦子
風も日も使ひきつたる枯蓮 谷口ちほ
どやどやの空七色にしぶきけり 秋山幸子

茨木和生

裏側に粗品積まれて金屛風 山中宏子
長刀の揺れて長刀鉾発ちぬ 竹森静雄
亥の子唄口伝は少しづつ変はり 高下なおこ

大石悦子
初御空クレーン四十五度の礼 平万紀子
龍の玉孵して龍を飼ふつもり 森宮保子
鶏頭のいのち知らずの赤さかな 新谷一代

南うみを

落葉掃く日向日影と音たがへ 野口喜久子
大寒の汗光らせて墨を練る 渡辺政子
寒鯉の尾鰭に遅れ水動く 伊藤曻

塩川雄三
妻らしく母らしくゐて着ぶくれぬ 三宅崇代
厭きるほど生きて日永を持て余す 福井貞子
着ぶくれて余命一日使ひ切る 浅川正

西池冬扇
荷台より箱の転がる寒さかな 富井惠子
初糶の明石の真鯛跳ね止まず 山内茉莉
十薬の匂ひ立ち込む地震の後 中川悦子

手拝裕任
首ひとつ加へて雪の露天風呂 島本方城
落葉掃く日向日影と音たがへ 野口喜久子
余力なきものは崩れて雲の峰 井上あや子

古賀雪江

聖菓配らるる水禍の仮住ひ 原田慶子
聞こえる人聞こえぬ人に鉦叩 山中悦子
獅子舞に泣かなくなりし子供かな 大石浩史

名村早智子
本当の土になるまで耕せり 大和愉美子
昇りゆくやうにも見えて夜の瀧 神原廣子
枯れるだけ枯れて動かぬ枯蟷螂 小寺篤子

小河洋二
乾ぶほど鼻の曲りぬ吊し鮭 富田範保
看護師のマスクの中の欠伸かな 富田洋子
腰に笛たばさみ鉾の人となる 西浦昭美

大橋晄
ちちははへ御慶つぶやき水供ふ 柴田惠美子
吉報のごとくに小鳥来りけり 飯野定子
飼ひ猫に言ひ聞かせつつ障子貼る 矢野紘子

田島和生
学校の長き廊下に九月来る 冨山貞子
円陣の十二神将春蚊出づ 髙橋翠
牛の背の漆びかりや初茜 福山良子

宮田正和
雪来るか噛み跡しるき厩栓棒 富田範保
海鼠舟水脈を豊かに戻り来る 手塚泰子
大白鳥歩めば日向移りけり 宇野恭子

村上鞆彦
虎杖も子らの手足も伸びにけり 神田昭次
裏側に粗品積まれて金屛風 山中宏子
腹圧せば泣く人形や雪降り来 村田和司

和田華凜

滝となる水の一念通しけり 岸しのぶ
春光の方へ漕ぎゆく車椅子 和田仁
芹洗ふ芹を育てし水をもて 山田健太

大串章

旅人とベンチを分かつ小春かな 前田攝子
良夜かな百歳のこゑはればれと 小林真木
さざ波のさざ波のまま凍りをり 藤本千鶴子

鷹羽狩行

雪だるま影まで溶けてしまひけり 七種年男
雪吊の張り強からず弱からず 越智巌
ひとりに広くふたりに狭き炬燵の間 島田たみ子

森田純一郎
蟻の道メッカを目ざす民のごと 倉田信司
雪だるま影まで溶けてしまひけり 七種年男
振り向けばもう消えてゐる海市かな 宇田多香子

石井いさお
半身を竿に委ねて海鼠突く 中山暁代
滝となる水の一念通しけり 岸しのぶ
どんど火の芯の固さの燃え始む 手拝なをみ

西村和子

灯を落す高野百坊冬の月 近藤昶子
どこまでも行く気小春の三輪車 渡里トモ枝
初夢の醒めてひとりと気付くまで 福井貞子

柏原眠雨
オーブンの窓を覗きてクリスマス 相場恵理子
帰宅せし夫より雪の匂ひかな 関美奈子
野火消えて闇焦げ臭き峡の村 瀨山一英

辻田克巳
蟻の道メッカを目ざす民のごと 倉田信司
介護用食器にもどる四日かな 岩波千代美
日捲りをまとめて捲る小正月 角野京子

有馬朗人

自画像の絵師潜みゐる涅槃絵図 堀瞳子
炭の名に菊や桜や初手前 広岡育子
吉良邸を見張る役あり夜鷹蕎麦 藤堂くにを

井上弘美
海神の登るてふ磴星月夜 新谷壯夫
その中に洗礼名ある巣箱かな 小畑晴子
どやどやの空七色にしぶきけり 秋山幸子

三村純也

産小屋の四囲の荒壁ちちろ鳴く 富田範保
杉山の奥のあかるし春子榾 山本耀子
木屋町の宵の明るき時雨かな 森田幸夫

柴田多鶴子

山羊の子の顎よく動く小春かな 前田攝子
かばの名だけ覚えて帰る遠足子 井村啓子
ロボットが螺子締めてゐる夜なべかな 中野陽典

田中春生

二尺余を厳しく老いて梅白し 浅川正
森を吹く風のやはらか鳥の恋 西宮舞
手花火や明日は帰つてしまふ子と 岩崎可代子

朝妻力
秋気満つ木出しの杣の祓ひ酒 井村順子
むかしこの夏木に来ては語らひき 蘭定かず子
一本の稗へ抜手を切るごとく 貞許泰治

岩城久治
一陽や念入りに拭く馬のかほ 上原悦子
梅探る蛭の卵のわかる子と 矢野典子
ホイツスル鳴ればラガーの山剥がる 鈴木禮子

柴田南海子
木屋町の宵の明るき時雨かな 森田幸夫
縫ひかけのベビードレスや福寿草 萩原善恵
石塀の放つぬくもり冬隣 春山武雄

能村研三

涅槃図に看取りの医くすしをらざりき 谷口智行
日にち薬人薬とふ日向ぼこ 鍋谷史郎
あたたかや鳥の名のある色見本 富井惠子

小路智壽子
鍬胼胝の手取る道行村歌舞伎 衣笠修爾
朝顔や補聴器つけて碁敵来 藤村澄子
ITの起業家として卒業す 伊瀬知正子

尾池和夫
口開けて足元を見る獅子頭 山本孝子
墨壺の糸を弾きて斧始 森田節子
石蕗咲くや一周一里の島巡り 富田範保

德田千鶴子

鱚釣りの空に虹色引きあぐる 夷子礼子
宮の灯に闇のあつまる在祭 岸田尚美
着ぶくれて余命一日使ひ切る 浅川正

【当日句】
朝妻力選

熟れ鮓の桶なほらひの座を廻る 前田攝子

茨木和生選

夏の雲何糞といふよきことば 三木節子
 

柴田多鶴子選

売られたる田で途切れけり青田波 七種年男

小路智壽子選

戦なき平成仕舞ひ武具飾る 中川悦子
 

西池冬扇選

葵祭斎王代のほほえまれ 東出恭子
 

森田純一郎選
熟れ鮓の桶なほらひの座を廻る 前田攝子