第57回関西俳句大会

日時:令和4年5月28日

於:大阪・淀屋橋朝日生命ホール

【朝日新聞社賞・関西俳句大会賞】

母国語に戻る夜学の帰り道   小西尚美


【関西俳句大会賞】
注連貰元気な声を置いてゆく   八嶋昭男
黒南風や海女小屋に置く木の枕   山本孝子
搗くたびに色のひろがる蓬餅   古賀勇理央
棒ほどの記念樹かこみ卒園歌   佐藤保子
山畑の母溶かすなよ大夕焼   七種年男
一番の日当たりにゐる冬の蠅   山本はじむ
キューピーのてのひら厚き四温かな   田村ふみ子
寒鯉の泥動かして泥を出ず   松村正之
合併を重ねて過疎の空つ風   島本方城
炭を焼き炭の匂ひに眠り落つ   松本愛子

南うみを特選
波郷忌の米玲瓏と洗ひけり   水間千鶴子
雪吊のゆるみなき空明けにけり   松本英夫
一山の隈無く掃かれ大燈忌   光田道子

江崎紀和子特選
注連貰元気な声を置いてゆく   八嶋昭男
風船をそつと持つこと覚えし子   徳永真弓
縁ありて盗人萩の付いて来し   三原寿典

柴田多鶴子特選
教へつつ春着を畳むよき日和   師岡洋子
母国語に戻る夜学の帰り道   小西尚美
透明の白魚水が隠れ蓑   石井洋子

名村早智子特選
母のゐる施設二尺の雪の中   小都妙子
雪吊のゆるみなき空明けにけり   松本英夫
桜苗植うる吉野の卒業子   今井文雄

西村和子特選

ペーロンの覇者の差し上ぐ櫂揃ふ   小塚青楓
鞠はじめ錦の袖をはばたかせ   笠原祐子
寒靄の湖の向かうの比良比叡   佐々木経子

前田攝子特選
睫毛より老いたる馬や加茂祭   大谷昌子
重箱に金の仮名文字西行忌   西村伸子
雪になる風よと北を仰ぎけり   新庄富美

和田華凜特選
悪しきこと聞こえぬ母の日向ぼこ   田村由紀子
身籠りて指うつくしき秋扇   市村健夫
寒紅の夕暮れの赤買ひにけり   福本せつこ

宮谷昌代特選
浮かび出て濡れ貌見せずかいつぶり   富田範保
合併を重ねて過疎の空つ風   島本方城
菜の花忌船の上より船眺め   宮本啓子

大石悦子特選

母国語に戻る夜学の帰り道   小西尚美
ほとばしる布留の玉水田を植うる   坂元軒二
ほどの良きころにて分くる牛角力   大島幸男

田島和生特選
大仏の螺髪を下に鳥の恋   平万紀子
梁の酒神灯し寒造   渡辺美智代
搗くたびに色のひろがる蓬餅   古賀勇理央

古賀雪江特選

つづれさせ声重ならず間を空けず   小寺昌平
雪搔隊一人暮しの家を先づ   栗原勝風
奈良の人鹿の間を素通りす   本橋無双

谷口智行特選
頂に星をあつめて冬眠す   新谷一代
雪だるま教室は今授業中   平田冬か
雪の夜の胸に温めし子の襁褓   中川キヌヨ

村上鞆彦特選

兜虫山に放ちて入院す   岡田邦男
仕留めたる鹿を傍へに夕焚火   近藤昶子
釣り上げし氷下魚は岸にすぐ凍る   尾崎恵美子

宮田正和特選
十二月八日日暮のハーモニカ   師岡洋子
黒南風や海女小屋に置く木の枕   山本孝子
あしたへと繋ぐけふあり初日記   三根香南

手拝裕任特選
搗くたびに色のひろがる蓬餅   古賀勇理央
庭に張るテントは子等の宇宙基地   渡里トモ枝
弾痕も寺宝の一つ春の雷   倉田信司

柏原眠雨特選
母国語に戻る夜学の帰り道   小西尚美
移動販売車聖菓も積みきたる   辻佐和子
棒ほどの記念樹かこみ卒園歌   佐藤保子

才野洋特選
絵は姉に任せる日記ソーダ水   日野久子
棒ほどの記念樹かこみ卒園歌   佐藤保子
誓子忌の夜の底より波の音   加藤いろは

石井いさお特選
水餅の水に沈むといふ容   寺西圭
棒立ちの余力を残し枯芭蕉   米野てるみ
天空の凧の陣形風まかせ   梅枝あゆみ

小河洋二特選
熊撃ちの撃ち損ねたる銃磨く   花木研二
ぶらぶらと六本の足氷菓食ふ   松本信子
田水引く養ひ水と云ひて引く   升田ヤス子

西池冬扇特選
どつしりと固まつてゆく鏡餅   宍野宏治
一番の日当たりにゐる冬の蠅   山本はじむ
やすやすと日の出跳び越す大海豚   富田範保

野中亮介特選

波郷忌の米玲瓏と洗ひけり   水間千鶴子
黒南風や海女小屋に置く木の枕   山本孝子
鮟鱇の面ほめあげて男去る   池田華甲

片山由美子特選
野水仙真つ直ぐに咲く折れて咲く   蓮井いく子
雨に濡れ石にも面輪春近し   今井勝子
太白の出でて夕菅咲きそろふ   小澤巖

森田純一郎特選
正客の衿足白き風炉手前   平井芙美子
待つほどに闇ひきしまる繞道祭   池田雪彦
切れ長の目のヅカジェンヌ冬帽子   森田教子

朝妻力特選
何かしてをらねば孤独毛糸編む   柴田香女
重ね着のとどめに羽織る豹の柄   塚本治彦
太白の出でて夕菅咲きそろふ   小澤巖

井上弘美特選
花吹雪峡の隔つる磨崖仏   渡邉眞知子
山畑の母溶かすなよ大夕焼   七種年男
炭を焼き炭の匂ひに眠り落つ   松本愛子

岩城久治特選
皮膚厚き犀は草食秋高し   佐方明遊
吾輩は葉つぱであると雨蛙   板倉眞知子
かはたれに影すれ違ふ寒さかな   保理江順子

田中春生特選
合掌は炎の形親鸞忌   松浦良直
獅子舞に開け放ちある大手門   小畑晴子
のぼる火の奥に火柱お山焼   渡辺倫子

德田千鶴子特選

真贋は問はぬ秘蔵の屏風かな   藤田信義
山畑の母溶かすなよ大夕焼   七種年男
逢坂へあと坂幾つさねかづら   駒木敏

能村研三特選
キューピーのてのひら厚き四温かな   田村ふみ子
強情と言ふはひたむき冬ともし   森山久代
風花や風の襞より生まれしか   河田智代

三村純也特選
一番の日当たりにゐる冬の蠅   山本はじむ
まだ暗きグランド走る寒稽古   村上光代
百歳は無理と言ひつつ薬喰   井村啓子

塩川雄三特選

ごまめ噛む傘寿と喜寿と向ひ合ひ   蓮井いく子
駅弁をひとり枯野に開きけり   安藤みつる
どんど焼天気をほめて風ほめて   猪田初美

小路智壽子特選
一番星連れて煤逃げ戻りけり   蓮井いく子
注連貰元気な声を置いてゆく   八嶋昭男
大枯野歩めば己が道となり   近藤好廣

大串章特選

日脚伸ぶ大和を巡るひとり旅   光田道子
風呂吹を好み何時しか傘寿なる   西野登志子
苦も楽も生ありてこそ老いの春   北田文代

富吉浩特選
風止めば茶の文字となる夏暖簾   宮田早智子
表まで文面続く賀状かな   播广義春
全身のどこかが湿り菊人形   名倉芳子

山尾玉藻特選
寒鯉の泥動かして泥を出ず   松村正之
ラグビーのスクラム隙間なく動く   渡辺倫子
愚かにも骨やはらかし鮟鱇鍋   藤野智弘

尾池和夫特選
床屋さん今日は行司よ宮相撲   宇田多香子
のぼる火の奥に火柱お山焼   渡辺倫子
枕頭のラジオを探る寒の地震   山本和子