第56回全国俳句大会 一般の部

開催日:平成29年9月5日  於:有楽町朝日ホール

【大会賞】
流さるる雛に一夜の灯をともす 半谷比奈子
溝浚ひして赴任地に馴染みけり 若林杜紀子
転勤を拒みし夫と耕せり 堀蒼浪
雪掻きてかきて暮しをとり戻す 赤壁郷子
葬送の列より校歌雲の峰 矢作十志夫

【秀逸賞】

捨てし田に守り来し田に雪つもる 勝間田禮子
流すべく雛の冠正しけり 鵜川久子
戦争があつて終つて田に田螺 高瀬竟二
新しき巣箱が水に映りけり 新井秋沙
遠くまで雨降つてゐる植田かな 山梨菊恵
月光に濡れ天蚕のうすみどり 小野塚登子
ひとしきり雪に濡れたる献花台 矢沢寿美
あたたかや小箱のやうに母座り 川村良子
稽古海女まじりてゐたる二番ミサ 矢野典子
鯨の恋吾が乗る舟を揺らしけり 澤聖紫

【選者特選】


有馬朗人特選

流さるる雛に一夜の灯をともす 埼玉 半谷比奈子
囀や白き卓布にハムエッグ 東京 鶴巻貴代美
峡の鳶高舞ふ日なり雛流す 岡山 西村琢

茨木和生特選

新しき巣箱が水に映りけり 埼玉 新井秋沙
葬送の列より校歌雲の峰 東京 矢作十志夫
ふるさとの山は宝よ薬狩 大分 麻生玲子

今井聖特選
春の宵にがきものおく舌の上 青森 山口せつ子
戦争があつて終つて田に田螺 千葉 高瀬竟二
捕虫網伏せて誰かと呼び回る 静岡 藤原千代子

今瀬剛一特選
遠くまで雨降つてゐる植田かな 東京 山梨菊恵
逞しき嬰の泣き声豊の秋 愛知 早坂貞三
上潮の千のさざ波朝桜 大阪 相原智恵子

大石悦子特選

あたたかや小箱のやうに母座り 北海道 川村良子
洗はれて涼しき母の桐箪笥 富山 野村美智子
啓蟄や洗へば光る牛の爪 大阪 中村風信子

大串章特選
農を継ぐ子に雪形を教へけり 青森 栗山朗子
折り鶴の一羽一羽や日脚伸ぶ 京都 吉見よしゑ
流さるる雛に一夜の灯をともす 埼玉 半谷比奈子

岡田日郎特選

大仏の光背となり山若葉 広島 新宅良子
雲上の御師の里暮れ花の雨 神奈川 乘田眞紀子
火渡りの法螺に落花のしきりなり 広島 坂本たか子

小川軽舟特選

戦争があつて終つて田に田螺 千葉 高瀬竟二
溝浚ひして赴任地に馴染みけり 東京 若林杜紀子
探梅のまづ青空を誉めにけり 富山 杉本恵子

櫂未知子特選
月光に濡れ天蚕のうすみどり 群馬 小野塚登子
みづうみの彼方晴れゆく雑煮かな 広島 坂本たか子
振り返り振り返り行く孕猫 長崎 小谷一夫

小澤實特選

祭笛眉根ゆたかに動きをり 千葉 安井三緒
国宝の一扉守りて村の春 長野 矢崎すみ子
杖の音魁けて来る賀客かな 愛知 岡田游子

鍵和田秞子特選

広島や熱き息吐く油? 大阪 川上弘子
立ち枯れの向日葵を抜く終戦日 京都 宮田早智子
捨てし田に守り来し田に雪つもる 新潟 勝間田禮子

角谷昌子特選

深井なす特攻の空鶴渡る 鹿児島 淵脇護
鞦韆に盲導犬の控へをり 東京 鈴木綾子
断崖は島の果なり沖縄忌 沖縄 伊波とをる

片山由美子特選

白地着て潔しとは言ひ切れず 神奈川 福田雅子
風薫る御召列車の通過駅 埼玉 鈴木政子
永き日の牛舎にとどく山羊の声 静岡 渥美絹代

柏原眠雨特選

おでん酒天井裏を山手線 静岡 小林美成子
稽古海女まじりてゐたる二番ミサ 滋賀 矢野典子
鯨の恋吾が乗る舟を揺らしけり 沖縄 澤聖紫

栗田やすし特選
断崖は島の果なり沖縄忌 沖縄 伊波とをる
前列に並び通して卒業す 埼玉 佐藤弘
風船を飛ばし分校閉ざしけり 三重 近藤昶子

黒田杏子特選
山百合に寄り添ふ羊歯もゆれてをり 愛知 加藤益子
老人と女が残り海市立つ 愛知 佐藤三千子
深井なす特攻の空鶴渡る 鹿児島 淵脇護

小島健特選

吹きさます骨酒飛騨の雪しまき 茨城 沖本けんじ
雪掻きてかきて暮しをとり戻す 奈良 赤壁郷子
父の日や子等に息災褒めらるる 岡山 杉本征之進

古賀雪江特選
雪掻きてかきて暮しをとり戻す 奈良 赤壁郷子
立山を仰ぐ日毎の冬支度 富山 浅野義信
葉の蔭に風の見つけし烏瓜 大阪 岸田尚美

鈴木貞雄特選
土付けて農のうたた寝稲の花 北海道 板本敦子
微笑みもことばのひとつ初ざくら 東京 草野准子
十一や文箱に母の終の文 神奈川 前田朝香

鈴木しげを特選
人参の赤を長寿の色とせり 東京 村田和子
春?や手窪に受くる山の水 島根 西村松子
被爆大榎玉虫とばしけり 広島 住田祐嗣

棚山波朗特選

母の径父の道あり桜山 千葉 甲州千草
暁の波たひらかに魞を挿す 滋賀 池谷百々代
うかつにも踏んで地獄の釜の蓋 岡山 密田真理子

鷹羽狩行特選
流さるる雛に一夜の灯をともす 埼玉 半谷比奈子
農を継ぐ子に雪形を教へけり 青森 栗山朗子
空広くなる深くなる巣立鳥 東京 国保泰子

辻田克巳特選
学舎を一景とせる落花かな 埼玉 武藤三山
春を待つ三分間の砂時計 京都 高井教夫
登山帽脱ぎてランプの宿に入る 兵庫 橋本正幸

?田千鶴子特選
流さるる雛に一夜の灯をともす 埼玉 半谷比奈子
鉛筆の丈のふぞろひ進級す 神奈川 吉田有一
寝ころんで雲に親しき啄木忌 東京 三栖隆介

仲村青彦特選
夢殿を出て遠足の点呼かな 大阪 小畑晴子
転勤を拒みし夫と耕せり 京都 堀蒼浪
母の手を強くにぎりて入学す 東京 ?村チカ子

中原道夫特選
蒲公英にかがむ三月十一日 千葉 中津留正子
数へ日のレシート長くありにけり 静岡 田口昌美
その中に戻らぬ鳩や原爆忌 三重 伊藤孝子

西嶋あさ子特選
初花を仰ぎ先師を仰ぎけり 長崎 上野泰子
いのち満ち満ちて淡墨桜かな 岐阜 小林紀代子
きのふより山河まぶしく卒業す 栃木 木多芙美子

西村和子特選

蜜柑むく反論はせず従はず 千葉 原瞳子
膝の手に山気のおよび十三夜 東京 吉岡昭子
転勤を拒みし夫と耕せり 京都 堀蒼浪

野中亮介特選
紺掻きの糊を盗みに雀の子 愛知 加藤行惠
子の気配なき箱庭の一軒家 滋賀 前田攝子
捨てし田に守り来し田に雪つもる 新潟 勝間田禮子

西山睦特選

卒業子束ねし髪を解きをり 愛媛 藤田美和子
ひとしきり雪に濡れたる献花台 神奈川 矢沢寿美
子の気配なき箱庭の一軒家 滋賀 前田攝子

能村研三特選
月光に濡れ天蚕のうすみどり 群馬 小野塚登子
東京は海へ迫り出す蜃気楼 千葉 田中臥石
大いなる墓標の如し鷹柱 愛媛 大賀康男

福永法弘特選

安曇野の空に展げて投網打つ 宮城 近藤文子
朝市に出す菜を洗ふ雪解川 大阪 阿部吉子
流灯を胸に抱へて水辺まで 富山 野村美智子

星野恒彦特選

葉桜やきのふの靴を休ませて 神奈川 須田聡子
流すべく雛の冠正しけり 大阪 鵜川久子
力抜く山の一角竹の秋 岡山 島村博子

藤本美和子特選
こふのとり歩む畷も初景色 奈良 犬童冴子
白鳥の首の彼方の伯耆富士 広島 坂本たか子
ひまはりの種採つてゆく転校生 富山 野村美智子

松尾隆信特選

鳥帰る塩屋岬に声残し 東京 佐藤俊子
啓蟄や兵の水筒地より出づ 沖縄 金城智子
棚田百その天辺の辛夷かな 愛知 佐藤三千子

三村純也特選
水牛の馭者の島唄風光る 福井 村田浩
早苗饗に男の料理並びたる 島根 奥井紘子
傘窄めしだれ桜をくぐりけり 愛媛 合田季武

山崎ひさを特選
溝浚ひして赴任地に馴染みけり 東京 若林杜紀子
冬浪や同姓多き海難碑 富山 金山千鳥
大鯉を抱へて走る池普請 福井 村田浩

村上喜代子特選

マドラーを軽くまはせば百千鳥 香川 植田桂子
雪掻きてかきて暮しをとり戻す 奈良 赤壁郷子
海原にせり出す松や旧端午 長崎 出田量子

山本洋子特選

麦秋や母のまぶしき割烹着 神奈川 由田欣一
知らぬ間に百になりしと蕗をむく 岐阜 小林紀代子
北国の春は赤子の欠伸から 北海道 伊藤麗子

【当日句会】

井上弘美特選
母もその一花となりて夕花野 斉藤秀明
百の手に引き締む帆綱雁渡し 小見恭子
子規の忌の布目をのこす新豆腐 川上弘子

大高霧海特選
インパールの褪せし日誌や敗戦忌 鈴木みすず
恐山あきつ浄土でありにけり 天野正子
秋灯し一軒のこる古本屋 松山三千江

鈴木節子特選

螻蛄鳴くや蹠に残るもののあり 持田由美子
鳥渡る深千尺に艦眠り 丹羽啓子
自分史に詩語こんこんと秋気澄む 鈴木節子

仲村青彦特選

白靴に馴染みてけふの街ありく 阿部千代子
秋風の遺影の七つぼたんかな 金子和実
落蝉に触るれば僅か飛びにけり 松川洋酔

藤本美和子特選
秋しぐれ木曽の馬子唄三下がり 岡田みさ子
淡海より都へのぼる水澄めり 千田百里
蜩の澄みわたりたる生家かな 組橋玲子

松尾隆信特選
縁側にちらかる日の斑桐は実に 市川稲舟
野の花の優しかりけり獺祭忌 武井清子
稲の花日々に言葉の増えてゆき 佐瀬はま代