第57回全国俳句大会 一般の部

開催日:平成30年9月11日  於:有楽町朝日ホール

【大会賞】

春闘に挙げたる拳老いにけり  新美欽哉(愛知県)

指ふれて動く鮑を買ひにけり  佐々木克子(北海道)

半日の無言はじまる蓴舟塚本  塚本佐市(秋田県)

古毛布もらふ老犬クリスマス  内山花葉(茨城県)

砲丸のどすんと日脚伸びにけり  樫本聖游子(千葉県)

入学の子に先生の大きな手  河内きよし(兵庫県)


【秀逸賞】

福藁を踏みて仔牛のはづみけり  藤野尚之(宮城県)

蛇笏忌や山動くかに霧動く  岡野美代子(埼玉県)

卒業す一人も欠くることなしに  宮下晴吾(東京都)

生き延びし牛に子牛や春兆す  平田クニ子(石川県)

農具市機械につよき嫁つれて  中川正男(静岡県)

初伊勢や生涯伊勢の国を出ず  近藤昶子(三重県)

延命を拒みし夫の墓洗ふ  坂口恵子(鳥取県)

産着縫ひ襁褓を縫ひし針祭る  古川和子(三重県)

物語まだ始まらぬ巣箱かな  石澤青珠(東京都)

声といふ声出し切つて寒稽古  若松司(滋賀県)

有馬朗人特選
母の名をなほ呼ぶインコ涅槃西風 大分 古賀宣道
煤逃げの男ハーレーダビットソン 福岡 小西和子
涅槃図の象の涙の大きさよ 大阪 福本せつこ

茨木和生特選
あの日だけ川滾りたり原爆忌 東京 岡田敏彦
卒業す一人も欠くることなしに 東京 宮下晴吾
山籟の只中にして涅槃寺 静岡 重山陽子

今井聖特選
大屋根に夜をまかせて牡丹鍋 東京 野上卓
もう乗らぬ自転車に干す唐辛子 千葉 髙橋道子
農具市機械につよき嫁つれて 静岡 中川正男

今瀬剛一特選
古日記思はぬ重さありにけり 京都 髙木理子
松毬にぶつかり曲る蜷の道 大阪 大庭みつゑ
裸木や来る鳥をみな止まらせて 神奈川 牛田修嗣

大石悦子特選
土筆摘む卒寿のあそびごころかな 京都 西村博子
産着縫ひ襁褓を縫ひし針祭る 三重 古川和子
短夜や宿の抽斗みな虚ろ 神奈川 鈴木典子

大串章特選

暴動の国より帰り雛飾る 神奈川 宮崎登美子
延命を拒みし夫の墓洗ふ 鳥取 坂口恵子
指ふれて動く鮑を買ひにけり 北海道 佐々木克子

岡田日郎特選

伸びきつて殻落しさうかたつむり 大阪 西本睦子
灯を消してよりの瀬音や雛の宿 広島 坂本たか子
管楽器響く校舎や水温む 栃木 小林由典

小川軽舟特選
乳呑み児に呑みきれぬ乳草萌ゆる 青森 木村あさ子
柔らかく白線を乗せ春の土 宮城 今野晶子
亡き父の家に春風通しけり 京都 辻睦子


櫂未知子特選
白墨でつなぐ星座や夜学生 埼玉 鯉素奈
母すこし遠くに座る雛納 東京 田中冬生
短夜や宿の抽斗みな虚ろ 神奈川 鈴木典子

小澤實特選
木地師小屋夜はごろすけ鳴くばかり 石川 中村とき子
蛇口より水貪りて裸の子 京都 福井貞子
啄木鳥の穴ある校舎卒業す 青森 川村丈夫

鍵和田秞子特選
家建てて家捨ててこの枯野かな 青森 神保と志ゆき
銃後とはすみれたんぽぽ在りし村 愛知 鱸鉱志
夕焼に煮物のやうな町がある 福岡 梅津稚子

角谷昌子特選
ふらここの天より垂れて除染村 北海道 梅津早苗
蛇笏忌や山動くかに霧動く 埼玉 岡野美代子
雪起し千羽の鶏冠ひるがへる 新潟 小黒音榮

片山由美子特選
物語まだ始まらぬ巣箱かな 東京 石澤青珠
石段の水の中まで伸びて夏 静岡 林浩世
入学の子に先生の大きな手 兵庫 河内きよし

柏原眠雨特選
指ふれて動く鮑を買ひにけり 北海道 佐々木克子
頰白鳴く陶土湿りの窯日誌 千葉 野辺祥子
仔馬生まる農学校の日曜日 静岡 二松祥子

栗田やすし特選

声といふ声出し切つて寒稽古 滋賀 若松司
たましひの寄り添ふ知覧冬ざくら 大阪 久保八重子
天井へ届く返事や一年生 茨城 永井弘子

黒田杏子特選

ふらここの天より垂れて除染村 北海道 梅津早苗
波の花追ひかけてくる五能線 青森 南美智子
青年の飲み干す真水広島忌 東京 相川幸代

小島健特選
暴動の国より帰り雛飾る 神奈川 宮崎登美子
桜咲く時は豪邸かと思ふ 大阪 森本成子
水舐めて声を太らす恋の猫 京都 大谷昌子

古賀雪江特選
水舐めて声を太らす恋の猫 京都 大谷昌子
朝寝して朝刊すでに古びけり 三重 西野たけし
あはうみや細波の曳く月の道 東京 石﨑宏子

佐怒賀直美特選
牧童の口笛乾く麦の秋 愛知 柴田近江
牛の仔を売りたる夜の螢かな 広島 石橋康徳
海原を二つに分くる鯨かな 千葉 をがはまなぶ

鈴木貞雄特選
あの日だけ川滾りたり原爆忌 東京 岡田敏彦
涅槃図の号泣といふしじまかな 奈良 柏木博
火を籠めし窯に春星降るごとし 兵庫 本村幸子

鷹羽狩行特選
畑打てば土も力を込めにけり 秋田 柴田和蕾
古日記思はぬ重さありにけり 京都 髙木理子
火の匂まとひて戻る除夜詣 広島 坂本たか子

鈴木しげを特選
こころゆくまで涅槃図の中にをり 千葉 大沢美智子
命日のてのひらにくる蜻蛉かな 北海道 板本敦子
攻め焚の音ひびきけり冬銀河 広島 坂本たか子

棚山波朗特選
半日の無言はじまる蓴舟 秋田 塚本佐市
船の名で呼び合ふ海人の花見酒 愛知 富田範保
北斎の波はまことや冬怒濤 東京 朝倉和子

辻田克巳特選

而して月の芒となりにけり 広島 北大路海
氏神へ酒一升の年賀かな 埼玉 落合美佐子
死ぬ権利あつてたまるか雀の子 三重 長田久子

中原道夫特選
手を打つて目高を消してしまひけり 神奈川 井手浩堂
あたたかや会釈がはりのクラクション 長崎 吉田四朗
古毛布もらふ老犬クリスマス 茨城 内山花葉

仲村青彦特選
マンションの窓煌々と初昔 広島 坂本たか子
春の夢吾より若き母に会ふ 東京 神田松鯉
風鈴や好きを力に学びごと 静岡 飯野定子

西嶋あさ子特選
満天にひしめく星や草泊 愛知 古賀勇理央
初伊勢や生涯伊勢の国を出ず 三重 近藤昶子
赤松の赤よみがへる雨水かな 青森 栗山朗子

西村和子特選
日当りの店よく売れて達磨市 東京 小塚美智子
誰からも遠くゐる夜の卵酒 福岡 佐藤逸子
鉋屑くるりと梅雨の明けにけり 北海道 板本敦子

西山睦特選
深田冷え案山子の足を抜きにけり 東京 佐藤俊子
蒲団干すメダル逃がせし子のために 和歌山 池田廣子
ゆく雁の列正しけり無言館 千葉 横山冬都

野中亮介特選

大寒の底に眠れる孕み牛 岩手 梅森サタ
白湯注ぐ音やはらかし山桜 福岡 中山幸枝
畑打てば土も力を込めにけり 秋田 柴田和蕾

能村研三特選
手の平といふ春愁の湧くところ 埼玉 鈴木恭子
神輿舁く鋼の腰を連ねあひ 大阪 南光翠峰

福永法弘特選
陸揚げの浅蜊にコンベヤー軋む 千葉 鈴木久美子
水占の文字となる間の寒さかな 滋賀 土井妙子
夕焼に煮物のやうな町がある 福岡 梅津稚子

藤本美和子特選

松のこゑ聞きに二日の松林 東京 加藤静夫
春闘に挙げたる拳老いにけり 愛知 新美欽哉
初伊勢や生涯伊勢の国を出ず 三重 近藤昶子

星野恒彦特選

追熟の果実のごとく冬籠 茨城 かしむらまさこ
新入生待つ黒板の光かな 富山 野村美智子
蛇笏忌や山動くかに霧動く 埼玉 岡野美代子

松尾隆信特選
片栗の花は阿修羅に似たるかな 大阪 西浦昭美
音といふ音を力に滝落つる 宮崎 小田切文子
菜の花に触れて離任の教師かな 千葉 川瀬智長

三村純也特選
新盆の客絶え間なく入れかはる 宮城 鎌田翠
春闘に挙げたる拳老いにけり 愛知 新美欽哉
真水湧くひとところある干潟かな 三重 久保文子

村上喜代子特選

萩風鈴や好きを力に学びごと 静岡 飯野定子
初蝶のまだ現し世の色ならず 京都 平万紀子
引鶴となるさりげなき一歩より 鹿児島 瀬戸清子

山崎ひさを特選
古毛布もらふ老犬クリスマス 茨城 内山花葉
生き延びし牛に子牛や春兆す 石川 平田クニ子
農具市機械につよき嫁つれて 静岡 中川正男

山本洋子特選

縁側に日の当りたる雛の家 東京 武井清子
亡き夫の狂はぬ時計春惜しむ 新潟 羽賀晴子
桜咲く時は豪邸かと思ふ 大阪 森本成子


【当日句会】

伊藤伊那男特選   
稲刈の休む時にも穂に触れて 木村麻利子
ほほづきを鳴らせばはるかなる月日 横田尚美
野分あと風のかたちを壺に挿す 井越芳子

太田土男特選   

名月や柱を打てる牛の角 小林眸
力抜くことを覚えて木の実落つ 稲田眸子
どさんこの花嫁が来る小鳥来る 坂本和加子

小川晴子特選
   
夫の背にちよいと呪ひ猫じやらし 橋本晶子
大花野苦楽のあまた風となる 有澤多津子
新豆腐瀬音もろとも買ひにけり 小川田鶴子

奥名春江特選   

赤とんぼ来る退院の車寄せ 木嶋純子
鱗雲ついに横文字身に付かず 石田静
ビターチョコふたかけ程の秋思かな 内田啓子

藤田直子特選   
稲刈の休む時にも穂に触れて 木村麻利子
零余子めし戦争知らぬ子も老いぬ 吉澤銚子
平成の果て揺れに揺れ芋の露 蟇目良雨

横澤放川特選 
  
山車の綱真つ直ぐ地面に置かれおり 矢沢寿美
椎の葉のいよいよ青し鑑真忌 岸本圭舟
木天蓼を食べ静塔の忌を修す 佐藤宏之助 

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