俳句カレンダー鑑賞 令和2年3月
- 俳句カレンダー鑑賞 3月
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船旅から無事に戻ってきた安堵感や、船上での楽しい時間が終わってしまう淋しさ......。乗客のさまざまな思いに応えるように、ゆっくりと港に近づく船。
空を見上げれば、群れをなした渡り鳥が雲の中へ消え去ってゆく。
「入港の船は」と助詞の「は」で入港の船を強調し、「急がず」と否定表現を用いたことによって、読者は入港の船だけでなく、出港の船の姿も思い描くことができる。
そして、出港する船のように渡り鳥もまた、先へ先へと心を昂らせているのだろうと想像が膨らんでゆく。読後にはしみじみとした余韻がいつまでも消えない。
季語やことばを誰よりも愛し、真摯に向き合い続ける作者ならではの、平明にして深い作品である。第4句集『風待月』(平成16年刊)所収。
(馬場 公江)入港の船は急がず鳥雲に
片山由美子
社団法人俳人協会 俳句文学館587号より