俳句カレンダー鑑賞 令和2年4月
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平成8年、勤務地和歌山時代の作。わかの浦は和歌の浦。聖武天皇が、725年この地に行幸した際、従駕した山部赤人が〈若の浦に潮満ち来れば潟を無み葦辺をさして鶴鳴き渡る〉と詠んだ地であり、歌枕として知られている。
掲句の季語は「汐まねき」。干潮時に干潟の穴を出て大きなハサミを振り上げる姿は何ともユーモラスで楽しい。赤人の歌の満ち来る潮と鶴という「雅」に対して、潮干と汐まねきという「鄙」。汐まねきの命に触れ、この地を歴史感覚でとらえた新しみのある一句である。
作者が「風」で師事した沢木欣一が生涯に亘って追求した「日本の原型(風景の祖型)」に迫る作品でもある。
空港勤務の職にあった作者は、様々な地で現場感覚を磨き、現在「万象」の主宰として即物具象の写生をモットーに句作を楽しんでいる。(江見 悦子)わかの浦日照雨過ぐれば汐まねき
内海良太
社団法人俳人協会 俳句文学館588号より