俳句カレンダー鑑賞  令和2年8月

俳句カレンダー鑑賞 8月
ことごとく出て相触れず星月夜 鷹羽狩行
ことごとく出て相触れず星月夜

鷹羽狩行
 月のない夜空いちめんに犇くような星々。すべての星が一つ残らずあるべき位置に出揃って、まさに月夜のような明るさ。さりげない「ことごとく出て」という措辞が星月夜のありようを的確に描き出している。
 しかし、星空をひたすら美しく描いている句として鑑賞するには「相触れず」という否定的な語句が棘のように読者の心に刺さってくる。そのために読者は一つ一つの星へ心を寄せ、みずからの脳裏に構築した情景をもう一度仔細に見直すことを迫られる。
 これほど多くの星が出ているのだから、そのうちの幾つかは触れ合うことがあっても良いのではないかと思うのは当然のこと。けれどもそれを強く打ち消されることで、一つ一つの星の孤絶感、宇宙空間における孤独、さらには孤独と裏返しで得られる独立性へと思いが及ぶ。
 星の光のきわやかさの正体を垣間見た思いがしてくる。(田中 春生)
 社団法人俳人協会 俳句文学館591号より