俳句カレンダー鑑賞 令和2年9月
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「俳句吟行用語集」に載っている雲の呼び名はざっと数えただけでも七十を越す。これだけでも日本語の、いや日本人の感性の豊かさを物語ってはいないだろうか。
集まって魚の鱗や波のような形をした雲。この雲が現れる頃には、鰯が大漁になることから名付けられたらしいが、雲の名の、そして秋の季語の傑作となった。
鰯雲の句は、そのまま景を詠まれたものと、それを見ての心象風景を詠まれたのに分かれるが、後者は作者の思い入れなので、もう一つ理解に至らないところがある。
この句は何の衒いもなく大景を詠みおろした。
さぞ見事な鰯雲だったのだろう。「ゆるびけり」で雲の変化をとらえ、日暮まで幾度も見上げて刻の移りも詠みこんだ臨場感あふれる句となった。
作者は俳句を始めて、この雲への思いが一段と深まったと語っている。(鈴木 興治)いわし雲日暮は鱗ゆるびけり
吉田千嘉子
社団法人俳人協会 俳句文学館592号より