俳句カレンダー鑑賞 令和2年9月
- 俳句カレンダー鑑賞 9月
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若者の間で「異世界物」というジャンルの小説が人気だ。主人公が現代日本の世界から急にファンタジー世界に転生し、そこでの生活を繰り広げるものである。掲句も、虫籠の中をおもむろに覗いたときに自らが戦乱の時代に飛ばされてしまったかのようだ。虫は騎馬に変身し、自身に向かって一目散に迫ってくる。
俳句における〝異世界への移行の演出〟においては、その入口である「虫籠」の設定が極めて重要である。自身が現実の対象を通すという手続きをしていれば、あとはどう想像を広げていくかが作者と読者に試される。
虫籠の閉鎖性と荒野の広大さの対比、虫の静と騎馬の動の対比が際立つ。切れ字が利用されておらず、用言で押し切るように書かれており、騎馬や主体の息遣いが思われる。季語としての「虫籠」が蓄積してきた情趣はほぼなく、竹ひごで作った籠ではないのかもしれない。(黒岩 徳将)虫籠の中の荒野を一騎来る
今井聖
社団法人俳人協会 俳句文学館592号より