俳句カレンダー鑑賞  令和3年1月

俳句カレンダー鑑賞 1月
降る雪や明治は遠くなりにけり 中村草田男
降る雪や明治は遠くなりにけり

中村草田男
 明治以降の俳句作品の中で、最も人口に膾炙された句の一つであろう。
 唯、烏兎匆々の時間の中にあって、況んや5Gの時代にあっての過去は、遠ざかる速度を更に速めている。この句も既に教科書に載っていないと聞くが作品自体の光度に変わりはない。
 「間断のない降雪の真白な幕は時処の意識を一切ブランク化してしまい現在が其侭で明治時代であるかのような錯覚が、明治時代は永久に消失してしまったという認識を同時に極度に強化した」と草田男自身述べている。
 小振りな句碑はいまも青山の青南小学校の門を入った左側にあって、私達を迎えて呉れている。
 明治時代の最後の時期をそこで過ごした草田男が、その場所を昭和の初期に訪れた際の所詠だが、この事は時代が移っても、個々人の歴史にあっては普段の事であり、この様な出合いで一つ心を耕したともいえる。私にとってのそれは戦後の時代に当り、今もその時々のことを齝んでいる。
(北島 大果)
 社団法人俳人協会 俳句文学館596号より