俳句カレンダー鑑賞  令和3年3月

俳句カレンダー鑑賞 3月
旅人に涅槃会の雨一雫 沢木欣一

 この句は、昭和44年2月15日、山口大学へ移ることになった飴山實氏の送別会を盤水、伊代次、徹氏ら十名が雨の降る浜松市内の「米久」に集まり、会食後の句会で詠んだ句。
 旅先での雨に、欣一は自註で「釈迦如来が入寂された日、この日にたまたま小旅行に出ていて、その日と思い、つつましい気持になった。」と記している。一雫の雨にも常の日とは違う、敬虔な思いを感じたのであろう。上五の「旅人に」は、小旅行とはいえ、自らを旅人としたのであろうが、人生これ旅、の感慨の広がりを読みとることが出来る。さらに言えば、新天地に旅立つ實氏への送別の思いがこめられていると言えよう。
 因みに、欣一は、〈竹藪の浅黄みどりの頃別る〉と詠んでいる。
(栗田やすし)
旅人に涅槃会の雨一雫

沢木欣一

 社団法人俳人協会 俳句文学館598号より