俳句カレンダー鑑賞 令和3年3月
- 俳句カレンダー鑑賞 3月
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寒さも和らぎ、街に人出もそろそろという、三月も初めの頃であろう。所は、例えば神戸や横浜のような異国情緒のある街がいい。その街頭の石畳に、広げ、並べ、立て掛けなどして売られているのは、複製の泰西名画や、無名の画家達による風景画、静物画か。
今でもときおり見掛ける風景である。
ごつごつした石畳と、その上で静かに微笑む、「モナリザ」とによって駆り立てられた作者の詩想は、明るく穏やかな情感を持つ「三月」の季語を得て好ましい一句となった。いわゆる、不死男の「もの俳句」である。
プロレタリア俳句、獄俳句で有名な作者だが、この句にその頃の影は無い。明るく、人間好き、異国趣味もあった、いかにも不死男らしい作品といえる。『万座』所収。昭和34年、58歳の作。
(伊藤トキノ)三月やモナリザを売る石だたみ
秋元不死男社団法人俳人協会 俳句文学館598号より