俳句カレンダー鑑賞 令和3年6月
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一読、多くの人は老夫婦の平穏な日常の一場面を想像されるであろう。だがこの句は句集『早桃』(昭和23年)に「かかはりごと」の小章の初めに出、昭和15年、作者36歳の作である。林火は昭和6年に長男、同7年には妻と死別、再婚した妻は大病で二度入院、その直後の句である。この時代は父の金銭問題を抱え、戦時下の社会不安等、生死への思いが澱となって句に仄暗さをもたらせていた。こうした作者の身辺事情を知ると、最初の印象とは大きく異なるに相違ない。
掲句にはその時の事情、心理など具体的に表現されたものはないが、若夫婦の無言の立ち姿が強く印象付けられ、底深い世界に引き込まれて行く。
私はこの句を読む度に名監督として知られた小津安二郎の映画の一シーンを思い浮かべる。
(関森 勝夫)梅雨見つめをればうしろに妻も立つ
大野林火
社団法人俳人協会 俳句文学館601号より