俳句カレンダー鑑賞  令和3年7月

俳句カレンダー鑑賞 7月
東山回して鉾をまはしけり 後藤比奈夫
東山回して鉾をまはしけり

後藤比奈夫
 第四句集『花匂ひ』所収。作者は大正6年生まれ。令和2年6月103歳まで、「諷詠」現役名誉主宰として俳句を詠み続け天寿を全うした。
 掲句は昭和52年7月15日祇園祭山鉾巡行の鉾回しの写生句である。
 作者の自句自解では「苦吟の末、私は音頭取りになって鉾に乗っている気分になってこの句が生まれた」と書いている。コンクリートの舗道の上に水を撒き割竹を敷いた上に車を引き入れて、綱を引き鉾を直角だけ回す瞬間を詠み止めた。
 苦吟の末とあるが、写生会の締め切り時間直前に何度も鉾回しの景を思い浮かべ、音頭取りとなっている作者は東山がぐらりと回ったように感じ「東山回して」の言葉を得た。
 これは物理学を学んだ作者特有の発見であり感覚である。作者には他にも物理的感覚で詠んだ句が多くあるが、この東山の句は代表作といえる。
 京都の八坂神社に美しい紅賀茂石に刻まれたこの句の句碑がある。
(和田 華凜)
 社団法人俳人協会 俳句文学館602号より