俳句カレンダー鑑賞 令和3年9月
- 俳句カレンダー鑑賞 9月
-
この句は安住敦の戦後第一句集『古暦』の冒頭四句目に出ている。
第一句は〈蟬しぐれ子の誕生日なりしかな〉で、左記の自註がある。「昭和二十年八月、米軍の本土上陸に備へ、対戦車自爆隊の一員として千葉県上総湊の兵舎にあり」。善く知られている〈てんと虫一兵われの死なざりし〉は、「八月十五日終戦」の自註にある通り、兵として迎えた最後の夏であった。手許に一冊の新書本がある。『随筆歳時記』。昭和31年発行。著者安住敦。その夏秋抄に、敦の兵としての生活が記されている。
春燈創刊は昭和21年、敦39歳。創刊号に「雁なくや」と〈兄いもとひとつの凧をあげにけり〉の句が、久保田万太郎選に入る。両句とも市井の日常を真摯に生きる敦の姿勢が感じられ、創刊号の二句のように、兄いもとへの慈しみの思いが読む人の心に通う。
(安立 公彦)雁なくやひとつ机に兄いもと
安住敦
社団法人俳人協会 俳句文学館604号より