俳句カレンダー鑑賞 令和4年8月
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朝顔のふるへる水をかけにけり
今瀬剛一夏から秋にかけて咲く朝顔。早朝に花を開き、昼頃には萎んでしまう。秋の初めと言っても暑さは残る。その朝顔に水をやる。
夏休みの宿題、明るくやさしい観察絵日記の朝顔なども思わせてくれる。一気に言い下された気息ある断定。難しい言葉や分かりにくい表現はない。したがって読む者の心に強く響くのであるが、平明な写生に終わっている訳ではない。
「ふるへる」という感動表現は自然(朝顔)と自己との交感、あるいは対象に溶け込もうとする作品に賭ける作家魂を感じさせる。作者の「いのち」に対する感動が「ふるへる」という描写によって輝きだす。
掲句は句集『新船』の巻頭に据えられている。句集後記には「この句集で私が試みたこと、それは対象をよく見ること、写生を考えるということの一点であった。結果的に写生は難しい、生易しいものではないということに気がついた。」とある。
写生は気力と説いた作家がいたが難行であることは間違いない。
(成井 侃)社団法人俳人協会 俳句文学館615号より