俳句カレンダー鑑賞 令和5年2月
- 俳句カレンダー鑑賞 2月
-
料峭や棒より長き人の影
棚山波朗平成13年作。第3句集『料峭』所収。
「春寒料峭」。「料峭」という季語は、この代表句と共に私の記憶の底にある。
平成20年から平成26年まで俳人協会理事長を務められ、寡黙な口から発せられる言葉は、いつも俳句に関わることだった。今思うと、自身に、常に何かを問いかけておられたのだろう。「料峭」という言葉も幾度となくうかがった。北陸の羽咋生まれである作者が特に好きな季語だった。
著書『俳句時事』の中に掲句について、「一本の長い棒が地に落ちているのが眼についた。近くに居た人の影よりは長く、真っ直ぐ私のところまで伸びていた。その時は棒の影の方が人の影よりも長いと思った」と自解している。
何もないところから感じ取った一瞬の感覚が、「料峭」という微妙な季節感と見事に響き合っている。令和4年2月13日逝去。享年82。
穏やかな眼差しは、いつも微笑んでいた。優しかったことばかりが思い出される。
(井越 芳子)社団法人俳人協会 俳句文学館621号より