俳句カレンダー鑑賞  令和5年3月

俳句カレンダー鑑賞 3月
芽牡丹や燠のごとくに父の言 上田日差子

 牡丹は春に、葉を落とした冬の姿から一気に芽を吹く。真っ赤な芽と幹の精気溢れる一株が「芽牡丹」である。この色と勢いが心の「燠」を呼び覚ます。「燠」は赤く熾った炭火のことだが、あたたかい・あついの意味もあり、「父の言」に相応しく言い得ている。  胸の奥の「父の言」は詩の火種となり「燠」は決意の証でもある。
 平成9年9月、父・上田五千石が急逝し「畦」が終刊となった。翌年3月「ランブル」を創刊、主宰として父と同じ道を歩みはじめた。
 「父の言」は心の声となり背を押し、大きな励ましとなったことだろう。
 平成23年、第三句集『和音』により俳人協会新人賞を受賞した。あとがきに「真っ新な目と心でそれら(季語たち)に出会い、十七文字に摑み取る。」とある。まさに「眼前直覚」の句である。掲句は『和音』所収。
(高野さちこ)
芽牡丹や燠のごとくに父の言

上田日差子

 社団法人俳人協会 俳句文学館622号より