俳句カレンダー鑑賞 令和5年4月
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落葉松の新緑の香の夜は勁し
根岸善雄昭和41年、水上での鍛錬会。初めての参加で句が纏らず悩んでいると、「もう一度谷川岳を見に行こう」と声をかけてくれたのが根岸さんです。その夜秋櫻子先生も投句された句会で鍛錬会賞を取ったのも頷けます。
以後、何かと声掛けがあり句会や吟行に誘って頂きました。長年「馬醉木」の同人会長を努められ、発行所への挨拶の帰りには酒席を設け、俳句と共に「和」の大切さを教えて頂いたのを思い出します。
抒情と調べを重んじ、自然と真正面から取り組む作者の、後年力を入れたのが「落葉松」です。四季折々の美しさは元より、土台や船舶などに使われる頑丈で揺るぎない木に惹かれたのかもしれません。
掲句も確かな自然観察で景を格調高く捉え、躍動的で爽やかな景を連想させる「新緑」と、「強し」ではなく「勁し」と表わしたところに作者の思いが込められています。
落葉松は根岸さんにとって「わが心の木」であり「母なる木」でもあったのです。
(藤野 力)社団法人俳人協会 俳句文学館623号より