俳句カレンダー鑑賞 令和5年6月
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湖といふ大きな耳に閑古鳥
鷹羽狩行昭和52年作。第6句集『六花』所収。
『新装版鷹羽狩行自選自解句集』(2007年講談社)に、「箱根山中での作」とある。一句の舞台は箱根のシンボル、芦ノ湖。
日中は観光客で賑わう芦ノ湖周辺だが、まだひっそりと静まり返っており、ただ閑古鳥の鳴き声が辺りに響き渡っているのみである。眼前に広がる芦ノ湖を眺めながら、その伸びやかな声に耳を傾けていた作者は、ふと、あることを思った。閑古鳥は、この湖に聞かせるために鳴いているのではないか、と。湖もまた、その声に耳を澄ましているかのように凪いでいる。
湖を大きな耳に見立てる斬新且つ新鮮なアイデアは、鷹羽狩行の真骨頂と言えよう。『六花』評で歌人の馬場あき子氏は、「閑古鳥をきく湖のにび色や、その深い水深は肉体を得、外界の声に耳をひらく肉体の暗さをイメージさせる」と述べ、「集中最も好きな句」と、この句を評している。
(熊谷 尚)社団法人俳人協会 俳句文学館625号より