俳句カレンダー鑑賞 令和5年8月
- 俳句カレンダー鑑賞 8月
-
照らし合ふことなき星や星月夜
片山由美子星月夜は月のない夜空が、星明りで月夜のように明るいことをいう。
掲句は作者の第5句集『香雨』に所収。同句集で第52回俳人協会賞を受賞。言葉にはならない気配のようなものを言葉にただよわせ俳句にする作者。そう言うと捉えどころのないように感じるが、俳句が内包する「詩の心」を思えば、作者の作句姿勢を理解できるだろう。
夜空に光る星は、激しい活動をしながら光を放つが、とても遠いから人間の目には小さな輝きにしか見えない。はるか光年に輝いた星は現在の私たちが見ている星の輝きとなり秋の澄んだ夜空を形成する。秋の夜空は明るい星が少なく、星座も見つけにくいから「照らし合ふことなき星や」の措辞は納得できる表現と言えるだろう。また、前述の措辞の抑制された表現からの「星月夜」への展開が、一句を広大なものとしている。
一点の孤高の星の輝きは、まるで作者の研ぎ澄まされた感性のようでもある。
(森 瑞穂)社団法人俳人協会 俳句文学館627号より