俳句カレンダー鑑賞 令和5年9月
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平成27年「かつらぎ」の熊野吟旅での作品。第3句集『旅懐』に所収。
串本から橋続きの大島に渡り、樫野の海金剛を訪れた。海面からそそり立つ多くの巨岩、奇岩に荒波がしぶく景勝の地。先代主宰森田峠が〈足もとに海金剛のすみれかな〉と詠んだ所縁の地だ。
多くの岩礁の中には釣師の取り付いている「根釣岩」も見える。海金剛の左手の方は黒潮の流れる太平洋が広がりよき漁場ともなっている。海面に大敷網の沢山のブイが並んでいるのが見えた。
岩礁の下に潜む魚を狙う根釣は、数少ない魚を時間をかけてじっくり釣る趣味的な漁法。それに対して大敷網は、鰤などの回遊魚の通り道に網を仕掛けておいて通りかかる魚群を一網打尽にする大がかりな漁法である。
この相対する漁法が巧まずして詠みこまれていて一句を面白くしている。
(平田 冬か)根釣岩大敷網に遠からず
森田純一郎
社団法人俳人協会 俳句文学館628号より