俳句カレンダー鑑賞 令和5年9月
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宗也らしく、一筆書きのような、それも太い筆で一気に書き上げたかのような迫力がある。
鈴虫の鈴を奪へる、すなわち、鈴虫が一斉に鳴き止むほどの風がどれほどのものであるか。自註によると「長崎の夜景を見下ろしていたとき爽籟が流れた」とあり、爽籟とはいうものの、長崎の丘の風の勢いは強いものであったのだろう。そうして身を包むほどの鈴虫の音から一転、辺りが静まり返ったとき、闇の中で作者の胸に去来したものは何だったのだろう。
掲句は平成4年作。その2年前に「若竹」の主宰を継承した作者は40代で、まさに壮年期であった。青春から白秋へ差し掛かろうとする作者は、闇の中でこの秋の風に自身の決意と重なる強さを感じたのではないだろうか。第2句集『八ツ面山』所収。
(川嵜 昭典)鈴虫の鈴を奪へるほどの風
加古宗也
社団法人俳人協会 俳句文学館628号より