俳句カレンダー鑑賞 令和6年2月
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みちのくの淋代の浜若布寄す
山口青邨昭和12年作『雪國』所収。淋代は、青森県八戸市から北方約40キロの地。昭和5、6年頃米国の飛行家たちがここを離陸地として太平洋横断飛行を企てたことで淋代の名は一躍世に出た。
青邨は「ある句会で「若布」の題を得て、私は淋代部落を眼に髣髴した。そこへ行ったことはないが、名前のあわれさが私にまざまざと思い描かせた。流れよる若布を拾って生活の資とする、北辺寒村を憧れる私の想像である。淋代には「濱」を添え、若布は「寄す」と表現してほっとした。」と自註で述べている。
青邨の外遊中、ホトトギス社に淋代に若布は採れまいと文句をつけて来た人があって、虚子先生が弁じて下さったそうである。後年、青邨が八戸へ行った際、「淋代は若布が採れますか」と訊いたところ、八戸では採れるが淋代はわからないとの答えだった。
青邨には吟行句、矚目吟が圧倒的に多い中で、掲句は数少ない題詠の一つだが人口に膾炙されている句である。
この淋代の地は平成23年の東日本大震災の大津波により周辺の松原も、明るく美しかった浜も一転して失い、かつての面影は失せてしまっている。
(染谷 秀雄)社団法人俳人協会 俳句文学館633号より