俳句カレンダー鑑賞  令和6年5月

俳句カレンダー鑑賞 5月
草々の受粉のつづく夕薄暑 仲村青彦

 初夏の夕風が、草原をそっと吹き抜けてゆく。空中の微細な花粉の舞いや、草々の優しい揺れに、夕日が柔らかく暖かな光を投げかける。この花は夕方に咲く野花であろうか。虫たちの小さなシルエットが、開き始めた花の間をせわしなく飛び回っている。自然の活動に満ちた平和な情景に、次第に心癒されてゆく作者の姿が目に浮かぶようだ。
 句全体に散りばめられた十個ものU音が、しみじみとした安寧の調べを響かせる。この豊かな低音が、まるで何かに守られているかのような温もりと落ち着きを感じさせるのだ。温もりは句世界を大きく包み込み、受粉が目の前の光景であるばかりでなく、時を紡ぐ悠久の営みである事をも思わせてくれる。美しい自然界の静かな繁栄を、豊かな詩情が伝えている。
(林  朱李)
草々の受粉のつづく夕薄暑

仲村青彦

 社団法人俳人協会 俳句文学館636号より