俳句カレンダー鑑賞  令和6年6月

俳句カレンダー鑑賞 6月
人生の輝いてゐる夏帽子 深見けん二
人生の輝いてゐる夏帽子

深見けん二
 平成23年5月、「花鳥来」例会で詠まれた句である。当日の高点句となり、合評ではモデルは誰だろうなどと話題になった。私は「人生」という言葉が気になって選んでいなかったが、けん二主宰の句であることがわかってみると、人生の大先達の温かい眼差しを感じて、納得した覚えがある。
 後年、この句について作者は、夏帽子をかぶった女性が自転車に乗ってさっと通り過ぎたのを見て、一瞬に出来た句だと回想している。虚子を生涯の師とし、客観写生を極めた作者には、推敲を重ねて詠まれた句が多いが、ときにはこういう句もあり、自ら「出会いの句」「授かりもの」と称している。人間讃歌とも言えるこの句は〈人はみななにかにはげみ初桜〉とともに作者の代表句となったが、いずれも季題に真摯に向き合う中で「授かった」句なのである。
 作者はこの句を収める句集『菫濃く』により、92歳にして第48回蛇笏賞を受賞した。晩年まで輝き続けた作者であった。
(阿部 怜児)
 社団法人俳人協会 俳句文学館637号より