俳句カレンダー鑑賞  令和6年7月

俳句カレンダー鑑賞 7月
鉾の稚児帝のごとく抱かれけり 古舘曹人
鉾の稚児帝のごとく抱かれけり

古舘曹人
 昭和57年の作で第5句集『樹下石上』所収。
 祇園祭では現在33基の山鉾が巡行するが、そのなかで本物の稚児(生稚児)が乗るのは常に先頭をゆく長刀鉾だけである。その他の山鉾は人形を乗せている。本句は稚児が屈強な男に抱かれて長刀鉾に乗り込む場面である。この時点で稚児は既に神の使いとなっており地上を歩かないので山車の舞台に抱えあげられる。その瞬間を首尾よく捉えた。「帝のごとく」とは幼帝安徳天皇のことを想像したものと思われるが、曹人の手応え感が伝わってくる。
 本景は四条烏丸での嘱目であり、この後四条麩屋町では稚児による斎竹の注連縄切りがある。危険なので実際には稚児の後の大人が二人羽織のように太刀を振るらしい。曹人はこの日長刀鉾を追いかけたそうで、その場面も観察したに違いないが句集にはない。比較的連作の多い曹人にして山鉾巡行はこの一句に絞り込んだ。本句に賭けた集中力のほどが窺える。     (丹羽 真一)
 社団法人俳人協会 俳句文学館638号より