俳句カレンダー鑑賞  令和6年8月

俳句カレンダー鑑賞 8月
ここへ来て佇てば誰しも秋の人 後藤比奈夫
ここへ来て佇てば誰しも秋の人

後藤比奈夫
 作者は「ここ」を何処とも言っていない。ここへ来た人「誰しも」と強調している。このふたつの代名詞を解くには季語「秋の人」。秋の人となり得るには穏やかな日差。涼やかな風。広い庭園が思われる。この地を過ぎていった人への思いも重なる。
 この句は平成9年諷詠中国九州支部担当の全国大会「高きに登る会」。場所は防府市。前日は天満宮、その日は毛利本邸。市の高所にある邸には南の方に突き出た広場がある。中心部にU字形の谷を挟み二つの突き出た広場。遠く海が見え、防府の町が眼下に広がっている。
 比奈夫師は右手の広場におられ全庭を見渡すことが出来た。全国から集まった句友が各々の所を得て佇んでいる。その一人一人に目をやり誰もがここの秋を堪能していると満足している。余り遠出をしない作者がここに来られた喜びも伝わる。  景の写生であり、自身の心の写生でもあるのだ。
(金田志津枝)
 社団法人俳人協会 俳句文学館639号より