俳句カレンダー鑑賞 令和6年11月
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落葉籠百年そこにあるごとく
大串章〈林火先生は私の「ごとし」俳句に鉄槌を下されるのが常でした〉(『俳句添削教室』角川書店)。大串章は師・大野林火から受けた添削指導を回想しています。当時無我夢中で〈「ごとし」俳句〉を「性懲りもなく」師に送り続けたと記しています。まれに採られたときの「この比喩新鮮」という評を喜びとしていたそうです。
掲句は、林火没後18年を経た平成12年に〝性懲りもなく〟詠まれた吟行句です。古色蒼然とした「落葉籠」から享けとめたものを的確に表そうと探るうち、安易に作ることを戒められた〈「ごとし」俳句〉に行き着いたのでしょう。「百年そこにあるごとく」の大胆で説得力に富む措辞に比喩表現の醍醐味を感じます。
「百年」という時間の厚みは人間の生の長さを連想させます。籠の古びる歳月と人の苦楽の歳月とが重なり、句に深い奥行きが生まれています。
泉下の師は掲句をどう評するでしょうか。
〔第5句集『大地』所収〕 (望月 周)社団法人俳人協会 俳句文学館642号より