俳句カレンダー鑑賞  令和7年1月

俳句カレンダー鑑賞 1月
水飲んでさて獅子舞のうしろ脚 内海良太

 正月元朝、和歌山県海南市の藤白神社で恒例の獅子舞が奉納される。
 藤白神社は「熊野一の鳥居」として熊野詣の重要な位置にあり、上皇達の熊野詣の折、歌会・神楽・相撲などが催された。「藤白の獅子舞」も、こうした機縁から生まれたと言われている。
 この初舞は、除夜の鐘を合図に一頭の獅子と猿田彦の掛け合いで、新春ののどかさを詠うもの。五人立と言われ、大きな獅子の胴幕の中で、一列5人が優雅に舞う。
 この句、社務所に控えていた舞手が、自分の出番に柄杓の水を飲み「さて」と気合を入れて立ち上がった場面。後ろ脚を受け持つ二人だった。「水飲んで」から始まり、「さて」と一呼吸、最後に種明かしというリズミカルで省略の効いた俳味たっぷりな句。動きを活写した軽みの句である。
(江見 悦子)
水飲んでさて獅子舞のうしろ脚

内海良太

 社団法人俳人協会 俳句文学館644号より