俳句カレンダー鑑賞 令和7年2月
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白魚を汲む瓏銀の潮の色
茨木和生那智勝浦町太田川河口での詠作である。白魚汲み(白魚漁)は早春の熊野の風物詩の一つ。梅の花がほころぶ頃に始まり、桜が満開を迎える頃まで行われる。
夜明けの熊野灘は銀箔を貼ったような光を湛え、荘厳を極める。この情景を詠むにあたり、「珠」が触れ合うようにして輝く「瓏」の字を用い、「瓏銀の潮の色」と表現された。
白魚は産卵のため川を遡上する。四手網を川底に沈め、群がその上を通過する時に掬い上げる。網に「め」と称する白タイルや貝殻などの目印をつけ、そこに白魚の淡い影が映ると、間髪を入れず網を上げる。潮回りの動きを見極める技術が必要である。
かつて僕もこの河口で〈とうになき白魚漁師の木札とや〉〈ころあひの距離よ漁場と白魚小屋〉と詠んだが、その白魚小屋も今はもうない。
第七句集『往馬』所収。
(谷口 智行)社団法人俳人協会 俳句文学館×××号より