俳句カレンダー鑑賞 平成22年2月
- 俳句カレンダー鑑賞 2月
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句集『料峭』所収、平成13年の作である。登場しているのは人と棒だけ、そしてそれらの影。動いているのか、静止しているのかは読み手に託されている。
例えば谷内六郎の絵の世界のように、明るくどこか切ない風景、と見ることができる。春を迎える喜びと期待に、早々と庭や畑仕事の準備を始めている。背景には子供たちの遊ぶ声。あれやこれやと道具の手入れなどするものの、肌にまつわる風はまだうすら寒い。働く人の動きも、どことなく鈍いようである。
「棒の影」に見たものは冬の残像であろうか、或いはまだ見ぬ物への畏れであろうか。「人より長き」という見立てが、この時期の微妙な季感を巧みに捉えている。
作者は「この時の頭の中は、カラーではなくモノクロの状態だった」と自解している。一幅の水墨画のような心象風景は、さまざまな場面で読み手の心と響き合う。さらには各々の解釈で、いかようにも広がりを見せていく句である。(沢ふみ江)料峭や人より長棒の影
棚山 波朗
社団法人俳人協会 俳句文学館466号より