俳句カレンダー鑑賞 平成22年4月
- 俳句カレンダー鑑賞 4月
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春の夜の狸は山へ帰へりけり 星野麥丘人 山里に闇が下り、とっぷりと日の暮れた静かな春の夜に、狸は山に帰って行った...という句意である。
無論「狸」は冬の季語ではあるが、あえて「春の夜」としたところにさらりとした軽さが生まれている。やはりこの句には、秋でもなく冬でもない「春の夜」が似合うように思う。
言わば山は狸にとっての住処である。夜になって狸どちがその住処に帰って行ったところであたり前、ということになるのだがそのあたり前に、どこかとぼけた可笑しさと懐かしさがあって、淡く切ない。
というのも、夕間暮れ、一稼ぎを終えてさっさと山へ引き上げてゆく狸どちの姿に、夜更けになっても煌煌と明かりを灯し働きつづけ、遊び耄けるわれわれ人間の暮らしの後ろ姿を重ね合わせ、考えてしまうからなのだろう。
自然のままにあるものとそうでないもの。その裏返しの姿から生まれてくる可笑しさと懐かしさを軽やかに詠んでいて、味のある作品である。(佐藤 安憲)社団法人俳人協会 俳句文学館468号より