俳句カレンダー鑑賞  平成22年9月

俳句カレンダー鑑賞 9月
虫の屍を裹みて露のひかりけり 日原 傳
虫の屍を裹みて露のひかりけり 日原 傳
 静かな朝の景を思う。小さな小さな昆虫の死体が、露の中に閉じ込められている。作者はこれを露が屍を裹んでいると捉えた。
 人間の場合、遺体を布で裹む儀式は多く存在する。地理的背景、文化的側面、宗教、人種など多くの要因によって葬送形式は異なるが、どの儀式も先祖を敬う気持ちや死を恐れる気持ちによるものである。
 さて掲句は、虫の屍である。日常生活において、虫の死はさほど気にかけられない。しかし、一生懸命生きたこの虫を露は優しく裹み込む。そしてその屍を裹んだからこそ美しく光ったのだ。  生命への慈しみ、死者を弔い冥福を祈る心に通じる一句である。(矢野 玲奈)
 社団法人俳人協会 俳句文学館473号より