俳句カレンダー鑑賞 平成22年9月
- 俳句カレンダー鑑賞 9月
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かりがねやゆふぐれは木の高くなる 辻内京子 「ゆふぐれは木の高くなる...」思わず口ずさみたくなるフレーズである。
こんな夕暮を自分も確かに知っている。そんな、なつかしさを覚える句だ。
秋の夕暮、雁の声に思わず空に目をやると、まわりの木々が、すうっと空に近づいた。ああ、木が高くなった。
こんな風に草や木や空や雲を見つめたことが、子どもの頃は無数にあったはずである。鋭敏な感覚と、子供のような率直さ。
今回初めて、作者の書による掲句の色紙を拝見したのだが、のびやかで力強い文字は、この句の繊細なイメージからは意外な印象を受けた。物怖じしない大胆さを感じたのである。
暮れ切ってしまう前のほんのひととき。秋の夕暮は格別な時間だ。作者は一人だが孤独ではない。自分の存在など無になって、あるのはただ雁の鳴く空と夕景の木々だけ。みずみずしい詩情をたたえた句である。
句集『蝶生る』所収。作者はこの句集で第32回俳人協会新人賞を受賞。(帆刈 夕木)
社団法人俳人協会 俳句文学館473号より