俳句カレンダー鑑賞 平成22年10月
- 俳句カレンダー鑑賞 10月
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昭和50年頃、瓢の笛を境港の俳人から貰い大切に保管していた私は、掲句を鑑賞するため久々に取り出して吹いてみた。
妻が「哀愁を帯びた音色ですね」と言う。尺八を吹く心地で吹くと、少しずつ調子付いてくる。 瓢の実は蚊母樹(いすのき)の葉にできる虫えい(ちゅうえい)で、虫が出たあとの空洞になったところを唇に当てて吹くと鳴る。
作者には、歳時記に掲載された次の句もある。
瓢の笛母郷恋ひつつ吹きにけり紫峽
蚊母樹は珍しい木で、古い神社や森などで拾って実を吹き鳴らしたこともあったが、きれぎれの音しか出なかった。今、私が試しに吹いても情緒を覚える。
作者は学生の頃、故郷にて良く吹いたことを思い出しつつ吹くと、一際妙なる音が鳴ったのであろう。
「心して吹けば」は、瓢の笛の吹き方を思い出されたのである。故郷を離れて都会に暮らす作者の感懐が表出されている。(佐藤夫雨子)心して吹けば妙なり瓢の笛
小路 紫峡
社団法人俳人協会 俳句文学館474号より