俳句カレンダー鑑賞  平成22年11月

俳句カレンダー鑑賞 11月
柊の花のましろき香をおもふ 片山由美子

 とても良い香がする。同じモクセイ科でも金木犀のような強い芳香ではなく、傍を通ったときにそれと分かるくらいの幽さだが、冬の澄みきった空気の中に凛とした存在感を放っている。
 その白い花は小さく目立たないものなので、先に香に気付いたのかもしれない。柊の花の香と思った瞬間、脳裏に白い色が閃いたという、匂と色彩の結びつきが面白い句だが、あの香を例えて「白」とは言い得て妙だと思う。もしもこれが他の白い花だったなら、全く別の印象を受けただろう。
 さらに、「ましろき」と平仮名で書くことによって、漢字表記の「真白き」には無い視覚的な柔らかさを感じ取ることができる。清楚な花の姿は勿論のこと、そこはかとない寂しさを含んだ初冬の空気も伝えているのである。そして、下五「おもふ」の、一呼吸置いたかのように静かな切れが、落ち着いた雰囲気を醸し出している。平明でさりげないが、行き届いた表現が光る一句である。(津川絵理子)
柊の花のましろき香をおもふ

片山 由美子

 社団法人俳人協会 俳句文学館475号より