俳句カレンダー鑑賞 平成23年1月
- 俳句カレンダー鑑賞 1月
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ただ崖をふすを水仙郷と呼ぶ 森田 峠 淡路島南 部の灘黒岩水仙郷。標高608?の諭鶴羽山が海に果てる急斜面に、12月から2 月にかけて500万本を超える野生の水仙が海へなだれるように咲き誇る。
昔は自然のままで、道らしい道もなく、時には水仙を摘む島乙女の絣姿も見られ たが、いつの頃からか観光化が進み、駐車場が完備し、急峻な遊歩道もできた。
水仙の香につつまれて展望台に立つと、沖には沼島(ぬしま)が望まれ 、終日失せぬ海光が眩しい。
「郷」といえば、一般には「むら」とか「さと」とかの平らな広がりのある情景 を想像するが、作者もまたそんな思いで目にした水仙の崖の印象を、飾らずに直叙 したのだ。
いささかそっけない表現に見えるが、実はその裏に対象に寄せる深い感動がこめ られている。 自然をこよなく愛する写生派の作者が、島の水仙郷の景観を、独特の写実的な手 法によって賞美した一句といえよう。 (大星たかし)社団法人俳人協会 俳句文学館477号より