俳句カレンダー鑑賞 平成23年2月
- 俳句カレンダー鑑賞 2月
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水甕に雪解一滴づつ波紋 野見山 ひふみ
水甕は古民家や寺院などに見られるが、やはり寺院を背景に思い浮かべるのが、この句の場合ふさわしい。伽藍の屋根の雪が解け、雫となって落ちている光景である。
一滴ずつ、やや間をおいて落下する雫は甕の水に点滴音をたて波紋を広げる。ここでは水輪ではなく、波紋という動的な言葉の使用が効果的で、一語一語力強く詠み込まれた句の余韻となって、心に伝わってくる。
それはいよいよ本格的な春となる喜びや期待感であろうか。あるいはひたすら対象を見つめながら、自分の存在など無にしているのであろうか。
削ったり付け加えたりせず、実体そのものに触れた句で、作者の緊張感をさながらに伝える力がある。一読して作者と読み手が一体となれる句である。(橋本世紀夫)
社団法人俳人協会 俳句文学館478号より