俳句カレンダー鑑賞 平成23年3月
- 俳句カレンダー鑑賞 3月
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夕波のさねさし相模初つばめ 鍵和田秞子
第7句集『胡蝶』所収。平成14年作。この年作者は、神奈川県大磯町にある西行法師ゆかりの鴫立庵第22世庵主となる。
掲出句は庵主として初めて西行祭を執り行った日の作品。鴫立庵のすぐ裏手に相模湾が展がる。その夕暮の海に初燕が飛んできたというだけの句であるが、「夕波の」とゆったりと詠み出したところに大切な行事が無事に終わった安堵感、「初つばめ」に清新な気分がよく表れている。また、「さねさし」という枕詞を用いたため、古典的味わいが生まれた。「さねさし相模」というサ音の重なりも明るい響きがあり、寄せては返す波を連想させる。
同時作の〈円位忌の波の無限を見てをりぬ〉と合わせて鑑賞すると感慨深い。作者は海辺にしばし佇み、遥か西行の頃より連綿と続く文芸の道に思いを馳せていたのであろう。(今村 妙子)
社団法人俳人協会 俳句文学館479号より