俳句カレンダー鑑賞 平成23年5月
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麦埃火の粉のごとくまつはれる
宮津昭彦
何と重い筆を執らなければならないことか。
宮津昭彦氏は先般1月10日に逝去された。当協会副会長、「濱」副主宰として期待されていた。何とも惜しまれる。
掲句は昭和61年7月号の「濱」誌上掲載7句のうちの1句。
麦埃は「麦扱」の傍題である。自註現代俳句シリーズ続8『宮津昭彦集』によると、この日作者は下野国分寺跡(栃木県)へ歩み続けて、麦扱きの現場に出会った。一面に麦ぼこりが漂っていた...と記している。
この眼前濛々たる麦ぼこりを、恰も「火の粉のごとく」まつわり付くと受け止めて、その体感を句に仕立てたものといえよう。その場に立ちつくす作者の孤影が、彷彿と思い浮かぶ。
先師林火先生は「先ず感じとったものを詠え」と説かれた。昭彦氏は終生これを信条とされた。
(小山 梧雨)社団法人俳人協会 俳句文学館481号より