俳句カレンダー鑑賞 平成23年5月
- 俳句カレンダー鑑賞 5月
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野ばらの白闇に入口あるごとし
橋本美代子
第5句集『プラハの月』所収。夜の帳が降りた我が家の庭の片隅で、真っ白な野ばらの一群れが、或いはアーチだろうか、くっきりと浮かび上がるように咲いている。
その様子を「闇の入口」と捉える発想は、昼間は可憐で清楚な表情を見せる野ばらの、もうひとつの本質である強さやたくましさの発見と、熟知しているはずの我が庭の、よそよそしいように思えるような夜の顔の発見から出発している。
野ばらの香りでも花の姿の美しさでもなく、その白さをフォーカスすることで、白と闇の黒、明るさと暗さ、もっと言えばみずみずしい野ばらと硬質な闇との対比が際立つ。
この闇の入口は一体どこへと続いているのだろう。闇の入口とは、すなわち夜という時間の入口でもあり、きっと希望あふれる明日へと続いているのだ。(倉橋みどり)
社団法人俳人協会 俳句文学館481号より