俳句カレンダー鑑賞  平成23年6月

俳句カレンダー鑑賞 6月
蚊の姥の竹生島より来りしか 星野麥丘人

蚊の姥の竹生島より来りしか

星野麥丘人

 第4句集『燕雀』(平成5年刊)の1句である。
 自註には「三井寺の隣の円満院で京都逢花会の夏期大会があった。竹生島へ渡ってから会場へ入り、その晩ががんぼを見て詠んだ作」とある。
 ががんぼは、あの長い脚を見せながら飛んできたのだろう。そこから、その日行った竹生島と結びついたのは、感情の賜物で、このしなやかな句が生まれたのだと思う。「来りしか」と下五でやわらかく受け止め、余韻を深めている。
 ががんぼは、蚊のように人の血を吸うことはなく、多くは短命という儚い虫だ。濁音を避けて、蚊の姥と詠むことで耳にも快く、句の姿もすっきりしている。
 繰り返し誦しているとあの広い湖や緑の竹生島が瞼に浮かび、眼前のががんぼと相俟って句が大きくひらけてゆく。
(河野美保子)
 社団法人俳人協会 俳句文学館482号より