俳句カレンダー鑑賞 平成23年7月
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一生の中の夕べや水を打つ
神蔵器
掲出句を読んで思い出したのは、「日々に過ぎ行くさま、かねて思ひつるには似ず。一年の中もかくの如し。一生の間もまたしかなり」という吉田兼好の『徒然草』の言葉です。こうした先人の言葉に比べると、この一句、ライトヴァースと見られてしまうかもしれません。しかしじっくり味わえば、実はこれが作者神蔵器氏の人生論の一端を示した作品であることが分かります。「一生の中の夕べ」、――漢語の「夕暮」には老境のたとえもあるとおり、この俳句にこめられているのは、長い一生の中で老境を迎えた作者の感慨、あるいは季語の「水を打つ」が暗示しているように、人生を真摯に歩いてこられた神蔵器氏ゆえの安堵感でありましょう。だからこそこの一句が読者の心の深いところで、静かにそして豊かに響くのです。
平成20年作、第10句集『氷輪』所収。
(遠藤若狭男)社団法人俳人協会 俳句文学館483号より