俳句カレンダー鑑賞 平成23年8月
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豪雨止み山の裏まで星月夜 岡田日郞 「庚申山・庚申山荘。日本百名山中もっとも手こずったのは皇海山である」と作者の『自疏句集山』にある。
皇海(すかい)山登頂は、3度までも天候の急変等により阻まれる。昭和63年、4度目の挑戦。山荘の夕べは、凄まじい豪雨に見舞われた。しかし夜半に目覚め外に出た作者の頭上には、満天の星が清らかに輝いていた。
皇海山登山の前山である庚申山は、曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』の奇々怪々な一舞台でもある。
山小屋の屋根を打つ激しい雨音、窓ガラスを叩く雨しぶき、豪雨は時には山崩れを引き起こし、人を死に陥れることもある自然の猛威である。しかし一方では、あらゆるものを浄化する大いなる力ともいえる。
掲句の魅力は「山の裏まで」という表現の圧倒的な存在感であろう。岳人の孤独な魂は「地球」という星の運行と天空の星の運行とをひたと見届けた。稜線を煌めきつつ昇ってきた星は、作者に啓示を与えた。
直視・直観・直叙に基づきながらも、悲しいまでに美しい宇宙の真理を捉えた。透徹した山岳美の世界である。(乘田眞紀子)
社団法人俳人協会 俳句文学館484号より