俳句カレンダー鑑賞  平成23年9月

俳句カレンダー鑑賞 9月
無月には無月のあかり芋洗ふ 小原啄葉

無月には無月のあかり芋洗ふ 小原啄葉
 無月とは空が曇って月が見えない状態を指す。特に、陰暦8月15日の月についていう。無月という表記から、天候に関わりなく全く月の見えない状態と勘違いする人もいそう(俳人にはありえないが)だが、それは月の光が地上にほとんど届かない朔(現代的定義での新月)のことである。
 無月では、雲の向こう側には月が照っているのである。ましてや十五夜の月であれば、その存在感は明らか。そういう状況を作者は「無月には無月のあかり」と詠った。目には見えなくとも、月を愛でる作者の心が伝わる。
 台所では月見に供える里芋を、家族の誰かが洗っている。その水音が夜空を見上げて佇む作者に、聞こえているのであろう。静かな秋の夜を過ごす作者の、心の静謐が伝わってくる一句である。(白濱 一羊)
 社団法人俳人協会 俳句文学館485号より