俳句カレンダー鑑賞 平成24年2月
- 俳句カレンダー鑑賞 2月
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御岳渓谷で詠まれたと聞く。すぐにダイナミックな多摩川の光景が浮かんだ。流れにも岸にも、巨岩奇岩がごろごろし、崖を滴りが伝う。鵜の瀬橋辺りはまさにカヌーのメッカで、遊歩道からの視線を集めている。
「カヌー下ろす」このゆったりした出だしには、待春の趣がある。「水の蒼さも春浅し」舟を下ろすとき近々見えた水の蒼さ。作者はそこに、まだ春色整わぬ春を感じたのだ。さらに「蒼さも」の「も」で、森羅万象の春の訪れを匂わせている。
また、中七から蒼さ、春、浅しとA音が明るく響く。読者は自ずから、逆巻く水を滑るとりどりのカヌーを思い描く。
早春から春本番へ、音を通して誘われる快さ。有りのままを叙して、思いは深い。海外ハイクにも精通されている氏の、心に残る一句である。
(杉浦 恵子)カヌー下ろす水の蒼さも春浅し
星野 恒彦
公益社団法人俳人協会 俳句文学館490号より