俳句カレンダー鑑賞  平成24年2月

俳句カレンダー鑑賞 2月
瀬田の奥すなはち宇治や獺祭 金久 美智子

 琵琶湖の奥といえば、湖の北端にある菅浦、さらに賤ヶ岳の麓の余呉湖を思い浮かべるが、視点を南に転ずると、琵琶湖から唯一流れ出る瀬田川は宇治に至る。石山寺を過ぎる辺りから両岸が迫る流れで、この渓の途中から宇治川と名前を変えて、天ヶ瀬ダムの辺りから川幅は広がり滔々とした急流が平等院、宇治橋を経て、やがて男山の石清水八幡宮の麓で桂川、木津川と合流する。この三川合流の地から淀川として大阪湾に注ぐ。
 では、作者はなぜ「瀬田の奥すなはち宇治や」の後に「獺祭(おそまつり)」の季語を据えられたか、ここに一句が生まれたヒントがあるようだ。芭蕉47歳の句に「膳所に行く人に」の前書で〈獺の祭見て来よ瀬田の奥〉が隠されている。悠久の流れに、芭蕉の作品への連想が豊かな詩情を呼び起こす。
(尾池葉子)
瀬田の奥すなはち宇治や獺祭

金久 美智子

 公益社団法人俳人協会 俳句文学館490号より