俳句カレンダー鑑賞 平成24年3月
- 俳句カレンダー鑑賞 3月
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夕暮の家に灯るあかりの暖かさは、蛍光灯の出現で失われた。でもそれは、色だけのことではない。「暖か」なものは、そう感じるわたしたちの心の中にある。「いろも」とはそういうことだ。 この下五を「暖かし」とすれば、「いろ」が主語になって、その描写が普遍性を主張する。しかし一句はそうでなく、ただ自分には「暖かに」感じられるのだという。
杏太郎いわく、俳句は一人称の文芸である。それはつまり、普遍性という押しつけがましさを嫌うことだ。「も」も「に」も、レトリックではなく呟きなのでる。
そして「舟宿」は、作者にとっていわば心の休息所である。落語の「船徳」なら、二階には勘当された若且那がいる。若且那もきっと、その「暖か」なものに囲まれていたはずだ。(仁平 勝)舟宿のあかりのいろも暖かに
今井 杏太郎
公益社団法人俳人協会 俳句文学館491号より