俳句カレンダー鑑賞  平成24年4月

俳句カレンダー鑑賞 4月
花の日も西に廻りしかと思ふ 大峯あきら
花の日も西に廻りしかと思ふ 大峯あきら
山々は、春らんまんの桜に彩られ、日輪は白く輝きながら天空を通る。日光は花びらに透き通り、薄紅に滲む。穏やかな花の一日が暮れ、日輪はやはり西の方に廻って行ったのかなあ、とふと思う。あきら俳句は、柔らかで、伸びやかで、こだわらず、思いのままに表現される。しかし、深い人間性に包まれている。
 氏は宗教学者で真宗教学の研究者。歌人前登志夫は「親鸞の弟子」と称したが、俳句には宗教臭はない。掲句と同時期に<いつまでも日は西にある牡丹かな>。同様に「西」は西方浄土と見られなくもないが、西は西でいいかと思う。
 氏はフィヒテやハイデッガー研究の哲学者。実在を尊ぶ。ただ前登志夫の称するように「抜群の霊力をそなえた存在」らしく、<虫の夜の星空に浮く地球かな>のような不可思議な宇宙世界も詠み上げ、幻惑する。
 掲句は平成20年作。『群生海』所収。勢いがあり、風格のある書を眺めながら、俳句悠々の世界を楽しみたい。
(田島 和生)
 公益社団法人俳人協会 俳句文学館492号より